昨日と今日2連休だったのですが、人生に絶望しながら
「1人上手」と「わかれうた」
をエンドレスで流し、泣きながら好物のソイジャーキーを自分に与えていたところ、左上の歯の詰め物が取れました……
行きつけの歯医者は土曜日の午前で診療が終わります
月曜まで予約の電話もかけられません
気分が低迷していると、嫌なことしか起こらない気がしてきます
自分だけこんな思いをするのは嫌なので、よかったらコレ食べてみてください
オススメです
私は飲食店で働いているのですが、常連さんにバーコード頭にアラレちゃん眼鏡の呉服屋さんがいます
歳は61歳
ジャズと文学をこよなく愛し、デジタルが主流の昨今、懐かしのCDウォークマンを持参し、本人の希望によりレンジでマグマのように加熱した1杯のコーヒーと6杯の氷水で平均3時間ほど滞在します
結婚歴がない独身主義で、88歳で痴呆の母親と来店することもあり、その度に
「アンタがやさぐれさんかい
うちは親戚が多いからちゃんと覚えてもらわないと」
と、古ぼけたミニアルバムに入った写真を見せられながら親族を紹介されます
どんな関係性だと説明されているのかは、敢えて考えないことにします
5回に1回くらいの頻度で、バーコード頭の指に出来たささくれに絆創膏を貼るように頼まれます
「いつも悪いね!
消毒するからちょっと待ってね」
と、唾液で湿らせた人差し指を差し出されます
ギリギリのラインを攻めてくるなと感心したものです
イヤホンでジャズを聞いているのですが、ノッてくると目を閉じ、両手の人差し指で恐らくデタラメであろう指揮をとりながら、頭を水飲み鳥のように動かすので、周りのお客さんがそっと席を移動します
軽く営業妨害です
そんなある日、いつものように絆創膏を貼っていたところ
「やさぐれさんさ、ジャズに興味ない?」
と、有名であるジャズシンガーの話を熱く語り始めました
「これは入門編みたいなシンガーで、ディズニーの曲とかも手掛けている人なの
女の人にも馴染みやすい曲だから」
あいにくジャズ以上にディズニーにもそんな興味がないので、その場で丁重にお断りしました
次の日のことです
来店したバーコード頭は素敵な笑顔を浮かべながらBOOK・OFFのビニール袋に入ったCDを取り出します
「いや~普通のCD屋に置いてなくて参ったよ
古本屋2件まわっちゃった!
友達が研磨機持ってて忙しいのに無理言って磨いてもらったの
音質も大丈夫だと思うよ」
この上なく要らなかったのですが、折角の好意なので受け取ろうとした矢先、耳を疑うような言葉が飛び出しました
「定価1000円に加え研磨済みだけどさ
やさぐれさんだから800円でいいよ
じゃ!席で待ってるから」
このとき断ればよかったのですが、呆気に取られて身動きが出来ずCDは既に私の手中です
人の話を聞いていないうえにケチでやたら恩着せがましい
まるで私のようです
定価が1000円のCDが、BOOK・OFFで800円で売られていたとは思えなかったのですが、ややこしいことになるのが面倒だったので場を収めるために払いました
帰宅してからCDケースを開けると
「ジャズとの出逢い ~その奇跡~」
と達筆な手描きで2つ折りの白い紙が、歌詞カードと別に挟まれています
嫌な予感がしました
「1曲目
代表作となったノスタルジックな作品
焼きたてのパンとベーコンエッグ
彼とベッドで
目覚めのコーヒーと共に……」
「2曲目
柔らかな草原をかける亜麻色の髪の少女達
匂い立つような珠玉の作品
荒波で笑顔を振り撒けないときに……」
島谷ひとみを思い出しながら読み進めていきます
どうやら手作りのライナーノーツです
「7曲目
降りしきる激しい雨の中
センチメンタルな乙女は高架橋で頬を濡らす
上司に怒られ枕を濡らす夜に……」
情景です
目を瞑り指揮をとるバーコード頭の中に浮かんだ情景です
なかなか面白かったのですが800円は高かったなと後悔し、そのまま引き出しに入れて半年ほど経過したころ
「やさぐれさんさ
金返すからあのCD返してくれない?」
と、切羽詰まった様子で頼まれました
聞けば絶版で、普通のCD屋にはまず置いていないとのこと
BOOK・OFFも探したけどなかったと言うので、これ幸いと、手作りのライナーノーツも入れたままCDを返しました
「いや~ごめんね!
今日は持ち合わせがないからさ
明日金持ってくるわ」
……
翌日
手作りライナーノーツを返したのがいけなかったのでしょうか
「なんか金で返すのも事務的で味気ないからさ
現物至急にしたわ」
心なしか立腹気味で渡されたダイソーの袋
コーヒーも頼まずに立ち去る姿を見届け、中身を確認します
そこにはダイソーの飴が3袋
500円の差額は心の治療費なのでしょうか
帰りにCD屋を除いたところ、絶版の筈のCDは普通に販売されていました
それ以来、絆創膏を貼るのを頼まれる度に
「さっきトイレ掃除してたので手を洗ってきますね」
と、忘れたふりをして近寄らないようにしています