女はクリスマスケーキ
昭和産まれの私は、20代後半で普通に結婚出来る筈と、根拠のない自信に満ち溢れていました
万年課長止まりの、うだつは上がらないけれど子煩悩で優しい夫を尻に敷き、狭いながらも戸建てを購入
一姫二太郎に恵まれ、お小遣い稼ぎにパートをしながら、退屈ではあるけれど平凡な幸せに身を委ねる毎日
…………
なんと世間知らずだったのでしょう
平凡ではなく貴族の生活です
イケメンで有能な男性に選ばれる努力もせず、己の市場価値も弁えず、身の丈にあったブサメンで無能な男と協力して生きていくのを拒み、41歳になった今も独身です
何度も軌道修正をしようと試みましたが、好きでも何でもない人と長時間過ごすと、ストレスで蕁麻疹や吹き出物が大量発生します
元々自分本位で、人に合わせられない性格ですが、ひとり暮らしを始めてから、磨きがかかっている気がします
子どもは半ば諦めかけているものの、人生のパートナーは欲しいのです
パートナーにとって譲れない条件を自分なりに考えてみたところ
・臭くない（好みの体臭）
・生理的嫌悪感を抱かない
・話してて楽しい
の3つに落ち着きました
過去の少ない恋愛経験の中で、このどれかひとつでも欠けると上手くいかないことに気付いたのです
別に聞きたくはないでしょうが、ブログをサボっていた3ヶ月の間、ざざ虫のような出会いが4つあったので、それを記していきます
①アプリの美容師43歳
私はもしかして美容師が好きなのでは……？
と思い立ち、車で2時間ほどの距離に住んでいる、自営業の43歳の美容師とマッチングしました
プロフィール写真に光る、綺麗で真っ白な歯並びに心奪われたのですが、今までにアプリで4人と会った経験上、プロフィール写真よりも実物がよかった試しがないので、あまり期待はしないでおくのが吉です
1ヶ月ほどやり取りが続きましたが、下ネタオンパレードのアプリ男性の中で、ただの一度も下ネタを挟んでこないのが好印象で、真剣味を感じたのです
美容機器の販売もしており、近々こちらに来る予定があるというので、仕事の合間に小一時間お茶をしようという話があり、朝から半身浴を決めた私は、待ち合わせのスタバへと向かいました
13時の約束でしたが、10分前に到着し、辺りを見渡しますがそれっぽい人がいません
やたらイケメンな細身のホスト風の男性がひとり、ベンチに腰掛けていますが、写真とは別人だったので、スルーして店内に入ろうとしたところ
「やさぐれさんですか？」
フワッと香るムスク系の香水の香りと共に、ホストが話しかけてきます
え……あの……写真……違う……顔…………
写真よりもイケメンが来たので語彙力を失っていると
「あ、写真の方が映りいいですか？
なんかすみません」
柔和な笑顔で謝られますが、どこか違和感を覚えました
イケメンです
紛うことなきイケメンです
私の嫌いなソース顔と細身ではありますが、誰がどう見てもイケメンです
香水をつける男は苦手ですが、かなりのイケメンです
混雑気味の店内に入り、注文をするのに並んでいると、視線を感じます
不釣り合いなのが自分でもわかります
どう見ても、ホストと同伴している中年女です
スイカフラペチーノにハマっていたので、先に注文すると
「あ、俺もそれにしよ
払いますね」
5000円を出そうとしてくれたので、好感度を上げる為に、遮って1000円を払います
「え、いいのに
なんかすみません」
またしても柔和な笑顔ですが、違和感が徐々に濃くなります
「ご一緒ですね
2000円お預かり致します」
やたら美人な店員さんがお釣りを返してくれると
「あ、はーい」
とことん柔和な笑顔で、美容師がそれを全部自身の財布にしまいました
スイカフラペチーノは680円……
320円のお釣りは、ブスとお茶する時給として徴収されたのでしょうか……
多少モヤつきましたが、特に考えずに流れでしまった可能性もあります
あまりネガティブにとるのはよそう……
気を取り直して着席します
その後、小一時間、事業や美容や、私の薄毛についての話をします
「……髪細い人の方が、意外と最後までハゲなかったりしますよ」
フォローしてくれますが、目が泳いでいたので、もう手遅れなのでしょう
「毛量はほぼ遺伝なので、お風呂で頭皮揉んで、血行良くするといいかも」
どこまでも続く柔和な笑顔に、初めから感じていた違和感の正体に気付きます
この人……目が死んでる
ひたすらイケメンですが、話が特に面白いわけでもなく、かつ私も面白い話題を提供出来るわけでもなく、約束の1時間が経過したので、時間を伝えると
「もう少し話したいんだけどまだいい？」
死んだ魚のような目で営業スマイルを繰り出されます
絶望……混沌……深淵………
睫毛でバサバサの、二重幅くっきりの目元が細められますが、どこまでも暗黒です
何が彼をそこまで追い詰めたのでしょうか……
聞けば、親御さんと一緒にやっている美容機器の事業が芳しくないとのこと
お母さんが働き過ぎて体を壊し、自宅で療養中であること
美容機器の販売をやめて、本業の美容師だけでやっていきたいが、お父さんに止められていること
などを、綺麗な白い歯で語られます
2時間が経過し、アプリでしか繋がっていなかったのでLINEを交換し、インスタをやっていないというと
「今どき！？」
と驚愕され、その日は帰路につきました
私の380円の行方が気になりましたが、イケメンとお茶出来た満足感で謎にホクホクです
家に帰ってからお礼のLINEが届きます
こちらもお礼のLINEを返信
1ヶ月に2回ほど遠征して営業に来るらしいので、今月の予定を聞きますが、私の休みと被らない旨を伝えると
「全然大丈夫ですよ
来月の出張の予定決まったら連絡しますね」
文章も柔和ですが、死んだ目がフラッシュバックしました
気を取り直して、店名を検索
少人数制のプライベートサロンのようです
ワイヤレスイヤホンデビューをしました
ACアダプタの存在を知らず、fire tv stickのアダプタで代用していましたが、出力が大きく壊れてしまうらしいので、再度、ACアダプタも買いに行きました
食器洗いや掃除機をかけているときも、YouTubeが聞けるので感動しています
また一歩、現代人に近付けた気がします
その後、1ヶ月ほど予定が合わず、LINEのやりとりを続けていましたが、徐々に体調不良の報告が目立ってきました
「今日は朝から喉が痛い」
「ペラックT錠を買いに行かなきゃ」
「胃腸炎になっちゃった」
「頭痛がひどい」
「溶連菌に感染した、お客さんかな？」
「熱が37度あるけど、休めないから頑張る」
「もうダメだ、インフルかもしれない」
ブラック企業勤めな故、40度あっても働いていたので、37度如きで大袈裟な……
という気持ちはありましたが、しんどさには個人差があるので、同調や共感を頑張りますが、嫌気が差し、体調不良から話題を変えようとしても
「そうなんだ
それはそうと、目眩と吐き気がするからコロナかもしれない」
体調不良語りに戻されます
毎日続くのでなんだか面倒臭くなり
体調不良多くないですか？
身体弱いんですか？
と返信
気分を害したのか
「弱くないよ
働き過ぎて具合悪いだけ
会社員と違って休めないし」
皮肉めいたLINEが来ますが、体調不良で休めるのはホワイト会社員だけなのです
「今月の◯日と◯日で、そっちに営業行くか検討中です
来て欲しい？」
面倒臭く、運転が出来ないなりに、バスや電車で自身が赴くなどの選択肢がなかったので
「どちらでも大丈夫ですよ」
と返信します
そのまままた1ヶ月が経過
出張の日と、私の休みが被ったので食事に行く予定だったのですが、風邪をこじらせ、同時に胃腸炎になったので、予定の3日前に謝罪と延期してほしい旨の連絡を入れます
「そうなの？
今日ちょっと電話出来る？」
死にそうなくらい体調が悪かったので、厳しいと答えますが
「22時くらいなら時間取れるよ」
話が通じません
嫌になってきたので、いっそ電話で断ろうと思い、22時に待機するものの連絡はなし
こちらから電話をかけても繋がりません
翌日
「昨日ごめん、仕事で疲れて寝てた
今電話かけてもいい？」
23時から通話をしたのですが
「昨日体調悪くて、病院行ったら逆流性食道炎だって言われて、ずっとお粥食べてた」
「不眠症でぐっすり眠れないから疲れが取れない」
安定の体調不良報告が始まります
自身が元気なときなら聞いてられますが、こちらも負けないくらい体調不良なので辛く、話題を変えようと、歯が綺麗で羨ましいと伝え、ケア方法を聞くと
「え？歯？
あ〜……これね、人工歯」
……………
……………
………人工歯？
入れ歯ですか？
と聞きますが
「いや、人工歯
歯茎弱い体質でボロボロなの」
と返ってきます
インプラントですか？
と聞くも
「いや、人工歯」
ブリッジですか？
と聞くも
「いや、人工歯」
差し歯ですか？
と聞くも
「いや、人工歯だって」
………
釈然としないまま、通話からLINEでのやりとりに切り替えます
【人工歯】をGoogle検索すると、やはり入れ歯のようですが、触れてはいけないと判断
脳内のクシャおじさんを払い除けながら、ひどい風邪と胃腸炎なので食事を延期してほしいと伝えると
「俺と食事に行くって考えたら元気が湧いてくるかも（笑）
楽しみあれば体調良くならない？」
脳天気な返信に体調の悪さも相まって腹が立ち
「自分が弱ってるときに同じ台詞吐かれたらイラつきません？」
と返しますが、待てど暮らせど既読がつきません
美容師が好きなわけではないようです
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