貧乏なのでヒモ男に縁がありません
ホストクラブに通う人の気持ちもわかりません
そんなことよりサガリが食べたいです
私は飲食店で働いているのですが、常連のお客さんのカップルの男性がヒモだと思われます
昼夜問わず来店し、2人ともお風呂に入っていないのか、髪はギトギト
服は毛玉と食べこぼしだらけ
全身から古い油のような臭いがします
男性の態度はすこぶる悪いですが、女性は腰が低く感じのいい人です
ものすごく猫背で、顔も動きもゴリラに似ています
男性もぬぼーっとした感じで、決してイケメンではありません
来店した段階で男性は常にダルそうです
女性は煙草を吸わないのですが、いつも喫煙席に入ります
モックモクの副流煙のなか、モソモソ喋る口角が下がった男の飲み物に砂糖を入れてあげたり、食べこぼしの汚れを拭いてあげたり、灰皿を交換してあげたりしています
男性を席に残し、女性はちょくちょく外出するのですが、大量の漫画本やカードゲーム、アニメキャラのフィギュアなどを箱買いして戻ってきます
礼を言うでもなく、つまらなそうにカードを開封し漫画を読み始める男性を愛しそうに見つめながら
「どう? いいの出た??」
「気に入った?」
「続き見たい? 買ってこようか??」
などと甲斐甲斐しく世話をやいています
男性はたまに何かの勉強をしているのですが、夜になると
「じゃあ私は仕事行ってくるからね
先に帰ってご飯食べずに待っててね」
と、女性が先に店を出るのです
スタッフの間では、女性が看護師か工場勤務の人なのではという推測です
男性は女性が心底鬱陶しそうで
色んな愛の形があるなあ……
と、仕事中の楽しみの1つでもあったのですが、先日、男性がいつもの女性ではない綺麗な人を連れて来店しました
颯爽とした足取りで爽やかに
「あ、こんにちは~!」
と、挨拶をされます
予測出来なかったので、内心ビビりながら挨拶を返します
まるで別人のようです
いつもは椅子に深く腰掛け、目の前の女性に目もくれずスマホをいじっているのですが、食いつき気味に前に乗り出し、綺麗な女性の話に相槌を打っています
蟹を食べた後のような最高の笑顔です
たまたま近くを通りかかると呼び止められます
「申し訳ありません!
お水を2つ頂けますか!?」
アナウンサーばりの滑舌にまたしてもビビりながら 席まで運ぼうとすると
「ありがとうございます!!
お忙しいでしょうから受け取りに来ました!!」
私からグラスを奪っていく手はしっとりとして、情熱に燃えています
連れの綺麗な女性の
「お煙草大丈夫ですか?」
の問いに
「女性の前では吸いませんよ!
失礼じゃないですか!!」
と、最高の笑顔で答えます
いつもの彼女は、彼の中で女性ではないようです
1時間ほど滞在したあと帰って行きました
支払いはもちろん男性です
ここ半年ほど毎日見かけていましたが、男性の財布を始めて見ました
マジックテープではなく、黒皮の長財布でした
パエリアを作りました
撮って気付いたのですが、台所周りが汚いですね
ふた口コンロのある部屋に住みたいです
殻つきのアサリの処理が面倒だったので、冷凍アサリをぶちこみました
パプリカは以前購入し、割った際に眠り姫のように芋虫が鎮座していたので、トラウマとなり触れなくなりました
玉座は窓から投げました
その後もカップルは毎日2人で来店します
相変わらず喫煙席に座り、支払いは女性です
綺麗な女性同伴事件で感じたのですが、やはり男性は目当ての女性の前では見栄を張る生き物です
人間誰しも、好きな人や落としたい人は大事にします
嫌われたくないからです
いつもの女性も勘付いてはいると思います
あれだけ蔑ろにされても、あの男性が好きなのでしょう
人のことだと冷静に判断出来ますが、自分のことになるとわからなくなります
誰がどう考えても脈はなく、悲しい未来しか見えません
都合のいい解釈をして目を背けるのではなく、自分を大切にしてくれる人の中からパートナーを選ぶのがマトモな判断です
大切にしてくれる人がいない場合はどうしたらいいのでしょう……
「そんな男はやめたほうがいい」
と言いたくなる気持ちを抑えて、今日もカップルの接客をしますが、本人が納得していれば問題はないので大きなお世話ですね
世の中は厳しいです