私は飲食店で働いています
運命の出会いは店員と客……
そんな素敵な話ではありません
↑
前に書いた、ホームセンターの鬱病の人とは別物です
何かを嗅ぎ付けるのでしょうか
仕事中も休みの日も、ハエ取り紙のように変な人を惹き付けます
チャームの魔法をかけてしまうみたいです
年は20代後半
脂っぽい髪の毛を黄色いバンダナでまとめ、指紋のついた眼鏡をかけています
吃りがちで早口
オタクを具現化した感じの人です
以後、バンダナと表記します
バンダナはいつも、店内の奥端の席に座ります
決まってコーヒーを注文し、そのまま4時間も5時間も居座ります
最初は気のせいかと思いました
妙に視線を感じるんです
他のスタッフにも指摘され、試しに無意味に店内を左右に往復してみたところ、バンダナの視線も左右に往復します
「今何時ですか?」
「今日は何時までですか?」
「いつもこの時間ですか?」
「帰りは何時ですか?」
「帰るときは1人ですか?」
さすがに怖くなってきたので、バンダナが来たら調理場に移動するなど、あまり近寄らないようにしていました
今日は鶏団子鍋です
料理の彩りを知らない36歳です
ある日、バンダナが席で書き物をしていました
滞在時間は6時間
最長記録です
時おり頭を抱えたり、壁に頭を打ち付けたりしています
軽く営業妨害です
帰り際、店内の掃除をする私の元に来たバンダナに、可愛くハート型に折り畳まれたルーズリーフを手渡されました
原文のまま書きます
「僕はうつです
5年前に仕事のストレスで精神を患っており、今は社会復帰に向け職業訓練校に通っています
貴女に一目惚れをしました
恐らく男を知らないであろう純朴な雰囲気
遊びも知らないのではないかと思います
恥じることはありません
僕がいろいろ教えます
僕を金銭的、精神的な面で支えてくれるのは貴女しかいないと感じました
代わりに僕は貴女の支えとなりたい
今はまだ無職ですが、僕の将来を見てください
可能性を信じてください
返事を待っています
PS .ちょっとお話しませんか?
はてなスーパーの駐車場で1時間後に待ってます
はてな市ブログ丁目アンテナ号11ー11
山田バンダナ男
1111ー22ー3333」
はにかみながら去っていくバンダナはやりきった顔をしていました
鬱病で無職の職業訓練校に通う携帯も持っていない思い込みの激しい気持ち悪い男が、なんの支えになるというのでしょう
負債ですよ
罰ゲームです
私は手取りが15万円なので、人を養う余裕はありません
仮に稼いでいてもバンダナは養いたくありません
可能性がどうとか将来がどうとか抜かしてますけど、今がもう将来中ですからね
交際中に鬱病になったのならともかく、まずは治して働くことが先決なのではないかと思います
私は確かに田舎っぺ丸出しの雰囲気ですが、指摘されると凹みます
果たして何を教えてくれるのか
家電にかけたらお母さんに取り次いでもらうのかと、悪夢のような思考を巡らせながら、ミスしたコピー用紙の裏に返事を書きました
「結婚しているので無理です」
もちろん嘘ですが、方便です
その日は閉店時間までの勤務だったので、はてなスーパーの駐車場にも行きませんでした
そもそもなぜスーパーの駐車場なのか
聞けなかったのが悔やまれます
翌日、心なしかご立腹で来店したバンダナに返事の手紙を渡したところ、いつもの指定席に座り、小1時間ほど頭を抱えて帰っていきました
ほっとしたところで気分よく仕事を終え、近くの本屋で立ち読みをしていたときです
「ち、ちちちち……ちち……」
歯切れの悪い雑音と共に、私の右腕がもの凄い力で後ろに引っ張られました
「ちゃんと読んだのかよおおおおぉっ!!!」
絶叫するバンダナは見たことがない形相をしています
体臭も口臭も臭いです
地獄です
「どうかされましたか?」
異様な事態に駆け付けてくれた店員さんを見て、肩を落としトボトボと店を後にするバンダナ
あれから見かけることはありませんが、はてなスーパーに行く際は、ついつい姿を探してしまう私なのでした