兆候はありました
アパートに備え付けのサンポットの灯油ストーブを使っているのですが、半年ほど前から頻繁に【E-07】という表示が出ては止まるのを繰り返していたんですね
ネットで取り扱い説明書を探して調べてみたところ、エラー番号には意味があるらしくE-07は対流フィルターや対流ガードにホコリが溜まっており、加熱防止の装置が作動しているとのこと
都度、掃除機でホコリをとりつつ騙し騙し使っていたのですが、昨日の朝【E-19】という新しい表示が……
ものすごい灯油臭に慌てて電源を切り、再度ネットで調べます
E-19は排気管が抜けているとのことで、自力で直すのを諦めて仕事に向かい、帰ってきてからアパートの管理センターに電話をかけるも
「本日の営業時間は終了しました
またのご連絡をお待ちしております」
むなしく響く音声メッセージに絶望します
カイロを3枚背中に貼り付けますが、寒くて寒くて堪りません
電気ストーブでは耐えられそうにありません
クリスマスに泊まりに行けるような友達はゼロ
実家には私の部屋も寝るところもありません
財布の中身は800円
ATMは閉まっています
彼氏の家に避難したいところですが、ルームシェアしている会社の人がインフルエンザに感染したので、病原菌コジキの私がお邪魔するのはデンジャラスだと判断
残金が心許ないことを伝え、近場の温泉に避難することにしました
体調はなんともないらしいのですが、菌を保有している可能性があるのでマスクをして距離を取る完全防備で会うことにします
「そんな人を病原菌みたいに……」
好感度はダダ下がりですが自身の健康には代えられません
そのくらい虚弱体質なのです
暖かい施設で一泊し、朝風呂をしてホカホカで氷のような部屋へ帰宅
悲しくなるくらい寒いです
管理センターの営業開始時間ピッタリに電話をかけると
「大家と話しますので少々お待ち下さい」
とのこと
大家さんは高齢のため、今年からアパートの管理を不動産屋に委託しています
車庫証明の書類を書いてもらうのに一度電話で話したことがありますが、訛りが強くて半分ほどしか聞き取れませんでした
「俺も昆布取るのに忙しいんだ」
「いまは昆布の時期だから」
「アンタ昆布は好きか？」
内容の8割が昆布でしたが、試しに書類を送ってみると、返信用の切手も手付かずで同封し、速達で返してくれたので多分いい人です
電話をかけたのが10時30分
凍えながら折り返しを待ちます
寒すぎて動きたくありません
ガソリンが切れそうなので入れに行きたいのですが、800円では心許ないのでATMに行きたい……
が、その間に連絡が来る可能性もあります
洗濯物も溜まっていますが、極端に日当たりが悪いのでストーブなしでは扇風機を使ってもなかなか乾かないのです
13時17分
電話がなりました
「いま大家さんと話したので、まもなく設備の人から連絡があるらしいです
お待たせしてすみません」
年末でストーブの故障や水道凍結のトラブルが多く混み合っているとのこと
寒すぎて布団に潜り込みますが、これでは何も出来ません
また1日が無駄になります
どうせなら夏に壊れてほしかったです
食卓用イスに座るのが寒いので、座布団を買いました
オタクの癖に星柄が好きです
スターに憧れがあるのかもしれません
修行僧のように震えながらひたすら待ちます
16時45分
設備の方から電話があり、15分くらいで到着するとのこと
不具合があったときにいつも来てくれる馴染みの60代のおっちゃんが来るに違いない
そう思い込んだ私は、化粧もせずボロボロの部屋着を重ね着して、浮浪者のような出で立ちで待ち構えます
とにかく寒くて何もしたくなかったのです
………………
神様は残酷です
来たのは3人のガテン系イケメンでした
30代後半のリーダー的な人
30代前半の補佐役的な人
20代前半の新人っぽい人
補佐役と新人っぽい人は腰パンし過ぎて始終パンチラを見せ付けてきます
これもサービスに含まれているのでしょうか
待っている間、暇なのでネットでストーブの取り扱い説明書をダウンロード
すぐに見られるようにスクショしたところ
カシャッ！
まさかのカメラ音が響き、イケメン3人が同時にこちらを振り向きます
「！？」
明らかな不審顔です
完全な盗撮おばさんです
「いや……へへ…………説明書をね
その……ダウンロードしてスクショ……へへ」
寒いはずなのに滝のような汗が脇を伝います
「あ、いえ大丈夫です」
あまり関わりたくなかったのでしょう
リーダー的な人が、補佐役的な人と新人っぽい人に作業を続行するよう促しました
なかなか複雑な壊れ方だったようで、ちょくちょく新人っぽい人を残して、部品を取りに行ったり外の配管を見に行ったり……
「寒っ！ この部屋マジ寒いっスね！！
ほぼ外っすね！！」
電気ストーブを出しましたが
「寒いっ！！ 寒くて腰が痛いっ！！
ストレッチしてもいいっスか？」
許可する前に体操を始める自由っぷりです
若さとは無敵です
息子のような気分になりホッカイロを分けてあげました
余談ですが、私のアパートは高校の近くかつ死角に溢れたところに建っているので、夕刻ドアを開けると制服カップルが玄関先の石段に座って逢瀬を重ねていることがあります
去年の冬、唇を真っ青にしながら楽しそうにしていたカップルがいたので、ホッカイロを渡したところ
「いや……なんかすみません」
若干引かれて立ち去られました
恐怖のホッカイロババアとして名を馳せたことでしょう
お陰さまで直ったので、文明の温もりを満喫しています
ATMでお金下ろして、ガソリン入れて、GEOに行ってきます
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